知っとこ!製造業

「海外」と「高付加価値」で成長を目指す、食品・飲料業界

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第四回目は、「食品・飲料業界」を解説します。

大企業から中小まで、裾野が広い食品・飲料業界

食品業界には、120社を超える上場企業が存在する。売上高数千億から1兆円規模の企業がしのぎを削る巨大な市場だが、中小・零細企業はその数も非常に多く、非上場を含めると業界には35,000社以上が存在すると言われる。

食品業界の市場は緩やかな上昇傾向にあったが、2018年度以降、売上高、利益率ともに減少傾向にある。コロナ禍となった2020年度は、巣ごもり需要の増加で、即席めんや食パン、調味料やハム・ソーセージなど家庭向け食品が好調に推移した。一方、飲食店向けなど業務用の食品需要は大きく落ち込み、業界全体の売上高は前年比4.5%減の42兆1,311億円、営業利益率は前年比20.7%減の2.3%となった。飲料業界は2019年に過去最高の売上を記録したが、コロナ禍となった2020年は、前年比7.3%減の3兆7,978億円となった。在宅勤務が増え、オフィス内の自動販売機やコンビニでの販売量が減少したことや、外出自粛でレジャーの飲料需要が減少したことが響いた。

食品・飲料業界を取り巻く市場環境

食品・飲料業は、原材料の多くを輸入に依存しているため、小麦や大豆、食肉などの価格変動や為替市場の変動に大きく影響を受けている。原油価格高騰による輸送費の上昇などを背景に原材料の価格が上昇しており、円安の進行も原材料費の高騰に拍車をかけている。こうしたコスト増を受けて、食品メーカーは相次いで値上げに踏み切っている。食は、人間にとって生活には無くてはならない重要な要素であり、不況に強い産業とされているが、値上げが常態化・長期化すれば、その影響は無視できない。

また、日本国内では少子高齢化や人口減少が進み、長期的には国内市場は縮小していくことは不可避である。そのため、大手企業は新たな市場を開拓するために、人口増と生活レベルの向上による市場拡大が見込める海外への進出を図るとともに、共働き世帯や高齢世帯の増加などの社会的なニーズを捉えた、高付加価値の商品開発に注力している。例えば飲料業界では、特定保健用食品(トクホ)や低糖をアピールした健康志向飲料など、世の中の嗜好の変化をとらえた商品が好調だ。

早くから海外展開を進めてきたキッコーマンや味の素は、海外売上比率が5割を超えている。一方、食品大手の明治ホールディングスや山崎製パンは、海外売上高比率が10%未満であり、企業によって大きな違いがみられる。海外企業には、スイスのネスレやフランスのダノンなど、ESGの先進企業も多い。このような競合と伍していくため、例えば明治ホールディングスでは、海外の主要なESG評価機関のスコアを評価指標に取り入れ、海外展開を強化している。

安心・安全への要求はますます高まり、業界のデジタル化を後押し

業界として最も重要な使命の一つが食品の安全の確保だ。近年、金属やプラスチック、虫などの異物混入や、食中毒などによる食の安全を脅かす事故が発生し、メーカーが自主回収するケースが増えている。食の「安心・安全」に関連する事故は、社会的な影響は大きく、一回の発生で企業の存続自体を脅かすほどとなっており、徹底した衛生管理が求められる。

2021年6月からは、衛生管理の国際的な手法である「HACCP」が国内でも完全義務化された。食品を扱う全事業者が対象であり、食品工場のみならず、食品を加工しない販売のみのスーパーや個人経営の飲食店であってもHACCP導入が求められる。中小企業者のHACCAP対応を支援するために、「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法(通称:HACCP支援法)」も制定された。

食品・飲料業界は、昔からの業界特有の商慣習との兼ね合い(卸、商社、メーカー、小売)もあり、システム化、デジタル化が遅れていると言われる。今後は、新型コロナウイルス感染症対策やHACCAP対応などを機に、安全・衛生対策を徹底した製造工程や、災害時でも安全な加工食品の流通・供給ができる体制の構築や、ITの導入・人材の確保・廃棄にかかるコストの削減・機械化の導入などが進むとみられる。

サステナビリティへの対応が長期的な成長の鍵

2019年から「食品ロス削減推進法」が施行されるなど、食品ロスやプラスチックごみ対策、大豆ミートをはじめとした植物由来食品などの肉代替製品など、サステナビリティへの注目が高まっている。SDGsでも、2030年までに小売り、消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減することが目標となっている。

健康志向や動物保護の高まりもあって、植物肉への関心は高まっている。また、動物から採取した細胞を培養して作られるのが培養肉の研究も進んでおり、2040年には、世界の食肉市場の7割が培養肉と代替肉になるという予測もある。将来的な食糧不足に対する対策として昆虫食への関心も高まっている。安全な食を提供することは大前提として、その上で、健康や環境といった、注目度が高いテーマで市場を拡大していくことができるかどうかが、今後の食品・飲料業界の将来を左右するのではないだろうか。