深読み製造業DX

工作機械業界のDXに不可欠な存在、デジタルツインの可能性

コロナ禍となり、社会やビジネスのあり方が大きく変わるなか、工作機械業界においてもDX実現に向けた取組みが加速している。なかでも、デジタルツインは、工作機械のテストカットや、マスカスタマイゼーションに不可欠な段取りの効率化に大きく活躍すると期待されている。近年、デジタルツインは、製造業のみならず、スマートシティなど、より広範な分野において活用が進んでいる。それでは、デジタルツインでどんなことができるのか、デジタルツインが実現する工作機械業界のDXの姿を探ってみた。

目次

・コロナ禍でデジタル活用が進む工作機械業界
・加工精度の検証に必要な「テストカット」をデジタルツインで効率化
・マスカスタマイゼーション時代に不可欠なデジタルツイン

コロナ禍でデジタル活用が進む工作機械業界

コロナ禍で顧客と対面での商談が難しくなったことから、工作機械業界ではデジタル技術の活用が進んでいる。DMG森精機では、2020年より、出荷前の機械制度や動作確認をデジタル化した「デジタル立ち合い」や、伊賀グローバルソリューションセンタをデジタル化した「デジタルツインショールーム」の提供を始めた。

▲リアルのショールーム(上)とデジタルツインショールーム(出所:DMG森精機プレスリリース)

オークマや安川電機なども、バーチャルショールームで製品や加工例の動画などを紹介している。牧野フライス製作所では、2020年夏から、生産拠点に出向けない顧客向けに、同社の神戸テクニカルセンターで「デジタルボックス」を運用している。

購入前のサービスのみならず、購入後のトレーニングなどのデジタル化も進んでいる。近年主流となりつつある5軸加工機は、工具やワークを前後・左右・上下に動かす3軸に加えて、ワークを回転したり傾斜したりする2軸を加えた5軸で加工するため、操作が複雑になっている。従来は、購入後のトレーニングは、工作機械メーカーが開催する講習会にオペレーターが通い、使い方を学んでいたが、近年では、動画を活用したeラーニングが充実しつつある。

デジタルツインで「テストカット」を効率化

工作機械を購入する前には、金属加工の精度や生産性が要件を満たしているかを確認するための「テストカット」と呼ばれるプロセスがある。DMG森精機は、2021年2月よりデジタルツインを活用してテストカットを仮想空間で行うサービスを提供している。

同サービスは、工作機械本体や、工具、加工素材、治具の物理特性をデジタル上に構築することで、切削加工を再現している。静的・動的な特性が高精度にモデル化されており、実際の工作機械を利用した加工と比較して、プラスマイナス数パーセント誤差で、加工シミュレーションを行うことができる。機械の空き状況や、工具、加工素材、治具の手配状況などに左右されず、好きな時にシミュレーションを実施できるため、テストカットに要する所要時間を大幅に短縮できることが魅力だ。実機を使用しないため、工具や素材、クーラント、消費電力を削減できるというメリットもある。

▲実機でのテストカット(左)と、デジタルツインテストカットイメージ(右)(出所:DMG森精機プレスリリース)

2021年10月には、シミュレーションにスーパーコンピューター「富岳」を利用し、シミュレーション時間のさらなる削減に成功している。実際には 8 時間かかる加工であっても、富岳を利用すれば、わずか10 分で結果が出るという。

マスカスタマイゼーション時代に不可欠なデジタルツイン

工作機械業界のDXを後押しするのが、マスカスタマイゼーションだ。かつての工作機械といえば、特定の加工だけに特化したものが中心だったが、近年では、一台で複数の役割をこなせる複合加工機が主流である。例えば、オークマは、最大600台/月の生産能力で、年間に約300種類もの機種を生産している。

オークマのスマート工場、ドリームサイト3(DS3)では、月に5個以上加工するワークは、量産品と定義されているという。DS3では、設備の稼働状況に基づきデジタルツインで今後の生産見通しのシミュレーションが行われており、効率的な生産が実現している。

▲ドリームサイト3(出所:オークマYouTubeチャンネル)

実際の製造工程では、加工プログラムを作成するなど、データを入力して工作機械をセッティングする「段取り」作業が欠かせない。従来の段取り作業は、PCで行うプログラム作成部分と、実際に工作機械を設置する現場での作業が分断されており、プログラムと作業現場の状況に齟齬があり作業がやり直しになるなどの無駄が発生していた。

ヤマザキマザックでは、実機のデータをもとに仮想空間に工作機械のデジタルツインを構築し、それをもとに加工プログラムを作成するツールを提供している。このようなツールを活用することで、作業の手戻りを減らし、生産性を向上させることができるのである。

工作機械を使った加工では、一つの製品の加工が終われば次の製品に切り替えなければならず、その都度、段取りを行う必要がでてくる。工作機械もマスカスタマイゼーション時代となった今、DX実現にデジタルツインが果たす役割は、今後ますます大きくなっていくに違いない。