スマート工場にXR、ローカル5Gなど、DXで大きく変わる製造業。その姿を正確に掴むために必要なキーワードを一挙に解説。第二回目は、「IIoT」について解説します。
住宅や車、家電や電子機器などがサーバーやクラウドサービスとつながり、相互に情報交換する仕組みがIoT(Internet of Things/モノのインターネット)です。このIoTの中で、製造業をはじめ農林水産業、金融業、鉄鋼業などさまざまな産業分野で活用されるIoTを、Industrial IoT、略してIIoTと呼びます。製造業におけるファクトリーオートメーションや、スマート工場がIIoT活用の代表例で、工場の機械にセンサーを搭載し、遠隔から稼働状況を確認するなどの用途に使われています。IoTとの違いや、代表的なIIoTプラットフォームについて、見てみます。
IoTとIIoTでは何が違う?
IIoTはIoTの一種ですが、産業用途に特化しているという特性上、通常のIoTには求められないような要件が必要とされます。今や、ロボットの活用や自動化が進み、24時間稼働する工場も登場しています。このような現場で使われるIIoT機器も、24時間365日稼働に耐えうる安定性が求められます。また、大規模な生産現場では、利用されるセンサーの数や、扱うデータ量が膨大なものとなります。大量の機器による同時通信を安定して処理することができるネットワークやストレージが必要です。
また、IIoTの通信がハッキングされれば、業務上の機密情報や知的財産が漏洩するリスクがありますし、場合によっては工場が正常に稼働しなくなる可能性もあります。IIoTでは、不正アクセスなどによる情報漏洩のリスクに万全の備えをする必要があるのです。
IIoTでできること
IIoTで機械をネットワークで連携し、稼働情報などを取得することにより、従来は作業員が検査、記録していた工程を自動化することができます。また、一連のサプライチェーンを可視化することで、無駄なプロセスを発見したり、人員配置を最適化することにより、生産工程を効率化することができます。また、IIoTで取得したデータをAIなどで分析することで、異常を早期に検知したり、機械の故障を予見することが可能になります。これにより、故障による稼働停止時間を削減し、稼働率や生産性を改善することができるのです。故障する前にメンテナンスを行うことで、保守人員の負担や費用の軽減にもつながります。
さらに、IIoTで、製造現場で収集したデータをコンピューター上にデジタルツインとして再現すれば、データをもとに現実に近い物理的なシミュレーションをコンピューター上で再現でき、開発期間の短縮やコストの削減などが期待できます。
IIoTで製造業DXを実現するためのプラットフォーム
2016年から2018年にかけて、製造業などでの利用に特化した、産業向けのIoTプラットフォームが続々と登場しました。米GEの「Predix(プレディックス)」(2016年2月提供開始)、日立製作所の「Lumada(ルマーダ)」(2016年5月提供開始)、独シーメンスの「MindSphere(マインドスフィア)」(2017年10月提供開始)、ファナックの「FIELD System(フィールドシステム)」(2017年10月提供開始)、そして、三菱電機のFA-IT連携基盤をベースとした「Edgecross(エッジクロス)」(2018年5月提供開始)などです。
工作機械大手のファナックが提供する「FIELD System」は、2021年にはTHKが提供する、直動機器やボールネジのデータを見える化するサービス「オムニエッジ」と接続しました。さらに、工作機械業界のデジタル化を実現する「デジタルユーティリティクラウド」とも連携しています。装置単体の稼働のみならず、工場や生産現場全体の状況を見える化することが求められる中で、より高度で広域のデータ活用を実現するべく、機能を拡充しています。
海外では、シーメンスはドイツが推進するインダストリー4.0の考え方に基づき、ドイツ全土の中小企業の工場を1つの基盤としてまとめ上げるプラットフォームを目指しています。従来はクラウド版のみでしたが、日本でも2019年からオンプレミスに対応するようになり、「MindSphere」は使いたいが、データは工場の外に出したくないというユーザーのニーズにも対応しています。
5G/ローカル5Gの普及で、IIoT活用はますます活発化
エッジ対応のプラットフォームも登場するなど、進化を続ける産業向けのIoTプラットフォームをフル活用するためには、5Gなどの通信が不可欠です。今後、5Gやローカル5Gが普及し、高速大容量・多数同時接続・低遅延の通信が実現すれば、IIoTの活用もますます盛んになるとみられています。世界のIIoT市場は、2021年の767億米ドルから、2026年には1,061億米ドルに達すると予想されています。今後も、IIoTや、その基盤となるプラットフォームの動向から目が離せません。