一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第七回目は、「包装機械業界」を解説します。
食品や日用品、医薬薬など、我々が日常的に手に取る様々な商品のほとんどは、包装されている。商品を包装するための包装機械業界は、日常生活を支える重要な産業といえる。家族構成の変化などを背景に個包装化が進んだことや、従来包装できなかったものが技術革新によって包装可能になったことにより、国内の包装機械市場は拡大を続けている。コロナ禍により、2020年はリーマンショック以来11年ぶりの前年割れの4,308億円となったが、中長期的には、今後も日常生活に欠かせない産業として、堅調に推移するとみられている。
また、国外を見れば、人口増や経済成長が続く新興国での包装ニーズが急速に伸長している。世界の包装機械市場は、2030年までの10年間で年平均4.7%成長すると予想されており、なかでも食品や医薬品市場が拡大するインドやASEAN諸国向けに、日本の高機能な包装機械の輸出が増えると予想される。
多様化するニーズにモジュール化で対応
スーパーやコンビニで、包装されて販売されている商品の形状や大きさ、また、包材の種類は千差万別である。そのため、包装機械は、基本的には納入先の仕様に合わせたオーダーメイド型の製品だ。しかし、一台の包装機械で、同じパターンの包装だけをこなしていれば良いという時代はもはや過去のものとなった。包装機械を活用している企業には、OEMで様々なブランドの製品の製造を行っているような企業もある。ブランド別に包装機械を入れ替えるわけにはいかないため、それぞれのサイズや形状に合わせ、柔軟に対応できる包装機械が必要とされる。
また、SDGsに配慮した省資源の簡易包装や、高齢者でも安全に扱える包装形態の開発など、包装機械に対する要望はますます多様化している。包装機械業界においても、マスカスタマイゼーションは大きなトレンドとなっており、最新の包装機械には、一つの機械で100種もの商品を包装できるものがあるという。
この課題に対する一つの解が、業界大手の大森機械工業が進めるモジュール化だ。包装機械には、包装用フィルムを巻き出し軸で供給し、袋状に成形するなどの、標準的な工程がある。この部分については、機械を標準化した上で、仕上がり部分や扱う包装材の幅や長さといった、カスタマイズが求められる部分を、モジュール化する。顧客からの注文ごとに、ゼロから設計するのではなく、可能な限りモジュールの組み合わせで対応することで、設計開発を効率化することができる。
IIoTで遠隔から稼働状況を把握しトラブル対応
包装機械のようなオーダーメイド型の製品には、トラブルが生じたときに原因を把握することが困難だという課題もある。包装機械メーカーの担当者が現地で確認するまでトラブルの詳細が分からないため、どんなトラブルにも対応できる優秀な技術者を派遣せざるを得ない。しかし、このような技術者が無限にいるわけではない。優秀な技術者がトラブル対応で手一杯になってしまっては、本来の設計業務が滞ってしまう。そこで活躍するのが、IIoTを活用したリモート保守だ。納入された包装機械の稼働状況を、製造メーカーが常に確認できるようにしておき、トラブルが発生した時には、まずリモートで対応する。技術者を現地に派遣する必要がある場合でも、事前に確認したトラブルの状況に応じて、適切なスキルを有した技術者を派遣できるのだ。
凸版印刷は、2021年より、同社の充填機・包装機に標準搭載可能なIoTパッケージを提供している。このような機能を搭載した包装機械であれば、遠隔からリアルタイムで異常を早期検知、早期対応を行うことに加えて、各種センサーから収集したデータから異常傾向を自動で検知して異常の予兆を見つけることも可能だ。また、時系列を追って製造履歴を確認し、トラブルの原因をより高精度、高速に特定することができる。他にも、ロボットを組み込んだ包装システムや、検査機器にAIを取り入れて異物検査精度を高めた包装機械が登場している。このような高機能な包装機械は、食品加工などの生産現場で人手不足が叫ばれるなか、生産現場の効率化にも貢献する。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、裸売りが一般的であった海外のスーパーなどの野菜売り場では、青果物が個包装されるようになっている。日本でも、個包装を行うパン屋が増えるなど、ウイルス対策としての食品の個包装に対応する包装機の需要は、今後も拡大していくと見込まれる。同時に、家族構成の変化や、環境や衛生意識の高まりを受け、包装機械の需要はますます多様化していく。包装機械業界が、今後どのようにユーザーの期待に応えていくのか、注目したい。
関連する業界団体
一般社団法人 日本包装機械工業会:https://www.jpmma.or.jp/
公益社団法人 日本包装技術協会:https://www.jpi.or.jp/