知っとこ!製造業

航空機業界は、デジタル化と脱炭素でコロナ後の成長を目指す

一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第九回目は、「航空機業界」を解説します。

2019年まで順調に成長するも、コロナ禍が直撃

国内航空機業界の市場規模は、2015年から2019年の5年間で7,000億円増加し、約1.8兆円となった。政府は、2030年までに航空機業界の売上高3兆円を目指す方針を発表しているが、2019年の冬に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、業界の先行きは不透明になっている。2024年には、世界の航空旅客需要が2019年の水準に回復し、その後は緩やかな成長軌道に戻るという予想もあるが、何度も到来する感染症拡大の波や、新たな変異株の出現が続けば、業界の先行きは厳しいものになる。

ボーイング787は準国産機か、高まる日本企業の存在感

航空機業界は、航空機を組み立てる完成機メーカーに、機体構造、エンジン、装備品を供給する専門メーカー、そして、これらを支える航空機部品メーカーから構成される裾野の広い業界だ。日本の航空機業界は、航空機製造のグローバルサプライチェーンの一角として、ボーイングの大型機プログラムのTier1事業を中心に発展してきた。特に中部地域は、「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」に指定され、国内の航空機や部品生産額の約半分を占めるなど、航空機業界の集積地となっている。

ボーイング機をみると、日本企業が担当する割合はボーイング767の15%、ボーイング777の21%、そしてボーイング787の35%と着実に増えており、日本企業の存在感が高まっている。中でもボーイング787は、三菱重工業、川崎重工業、富士重工業の3社が主翼や胴体などを受託生産し、炭素繊維も東レが一手に供給するため、「準国産」機といわれる。

航空機業界で進むデジタル活用

そんな航空機業界でのデジタル活用例を見てみよう。例えば、エンジンのデジタルツインだ。中東エリアへのフライトでは、砂埃がエンジンに吸い込まれ、ブレードに悪影響が生じる場合がある。従来は、ある飛行機が何回中東エリアを飛行したかというデータを元に、ブレード洗浄頻度を決定していた。しかし、機体に設置したセンサーから取得したデータなどを使い、デジタルツインで分析を行うことで、個々の機体ごとに、より精度の高い洗浄頻度を見つけ出すことができる。洗浄処理は高額で、洗浄中は当然ながら飛行機を飛ばすことはできない。デジタルツインの活用により、安全性を犠牲にすることなく、洗浄回数を最適化することが可能になっているのだ。

三菱重工業では、航空機製造の品質向上や生産効率化にAI活用を進める。鋲を挿入する穴を開ける作業を行うときに、部材から切粉が生じることがあるが、その切粉が残ったままだと、傷や挟み込みなどの品質問題が生じる可能性がある。切粉が残存するのは1000回に一回程度の低確率だが、決して見逃すことはできない。そのため、従来は、担当者が常に目視で切粉が残っていないか確認し、残存が発生した場合は装置の稼働を停止し、切粉を除去していた。三菱重工業は、これをAIで自動検知し自動的に除去することで作業を効率化する取組みを開始し、実証段階では検知に成功しているという。さらに、作業員の動きをカメラで追尾したり、細部加工などの動作をデータ化することにより、技能継承や業務効率の改善を目指している。

ボーイングも、バーチャル空間上での作業システムを構築し、仮想空間上で航空機の3DCGモデルの制作やシミュレーションを行っていく方針を明らかにした。事業のデジタル化を加速するため、2022年4年には、マイクロソフトとの連携をさらに深化させることを発表している。

航空機業界のコロナ後の課題は脱炭素

環境への対応、特に世界的な潮流となった脱炭素は、航空機業界にとっても大きな課題だ。飛行機に乗ることを止めようという動きが生まれており、スウェーデン語の「Flygskam」という言葉まで登場した。日本語では「飛び恥」と訳されて話題となったが、二酸化炭素排出量の多い航空機ではなく、鉄道を使うことで環境に配慮しようという運動だ。

2022年度から、文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、液体水素を燃料とする次世代航空機エンジンの開発を進めている。水素は、燃焼しても二酸化炭素を出さないという環境面でのメリットがあるが、現状では安全性やコストに課題がある。水素エネルギーに以前から取り組んできた川崎重工業では、水素航空機の実現に向け、コア技術である水素燃焼器、液化水素タンク、水素供給システム、そして機体構想の研究開発に注力し、2030年を目処に、水素燃焼向けの航空エンジン燃焼器の実証を目指している。

また、電動飛行機の研究開発も加速している。2018年には、こちらもJAXAにより「航空機電動化コンソーシアム」が発足した。航空機関連メーカーのみならず、自動車メーカーや電機メーカー、素材・部品メーカーなど100社以上が参加し、オールジャパンで電動化技術の開発に取り組む。

コロナ禍で大打撃を受けるなか、脱炭素という課題への対応も求められる航空機業界。デジタルツインやAIなどの最新技術を活用した生産効率の向上で現在の苦境を乗り越え、次世代の航空機開発で主導権を握ることができるか、今後の展開に注目だ。

 

関連する業界団体

一般社団法人 日本航空宇宙工業会:https://www.sjac.or.jp/

一般財団法人 日本航空機開発協会:http://www.jadc.jp/