スマート工場にXR、ローカル5Gなど、DXで大きく変わる製造業。その姿を正確に掴むために必要なキーワードを一挙に解説。第一回目は、「デジタルツイン」について解説します。
デジタルツインとは、リアル(物理)の世界に存在しているものを、バーチャル(仮想)空間にリアルタイムに再構築したもののことです。双子のようにそっくりに再現することから、デジタルの双子(ツイン)と呼ばれます。デジタルツインと従来のシミュレーションとでは何が違うのか。デジタルツインにはどのようなメリットがあり、どのように活用されているのか、製造業での活用方法を中心に、見ていきましょう。
デジタルツインとシミュレーションでは何が違う?
現実に近いモデルを構築し、将来を予測するシミュレーションは、デジタルツインという言葉が生まれる前から行われてきました。製造業を含め、多くの業界で、商品の開発や技術の検証のためにシミュレーションが行われています。それでは、デジタルツインと、従来のシミュレーションは何が違うのでしょうか。
その答えは、デジタルツインの精度とリアルタイム性にあります。IoT(モノのインターネット)が普及し、あらゆるモノのデータを取得できるようになったこと、また、5Gの登場など通信技術が進歩したことで、センサーなどで取得した大容量のデータを、超高速、低遅延で伝送できるようになり、現実空間の情報を、リアルタイムに仮想空間上に反映できるようになりました。さらに、AI(人口機能)の進化により、デジタルツインを活用したより高度な分析や予測が実現したのです。
デジタルツインで、製品開発や試作品のテストを効率化
実際にデジタルツインを使うと、どのようなメリットがあるのか見ていきましょう。製造業では、試作品のテストに必要な時間や費用を大幅に削減することが可能です。例えば自動車業界で新車を開発する際には、試作車両を試走して性能を確認する必要がありますが、これをデジタルツインで行うことができれば、必要な人員や時間、費用を大きくカットすることができます。
エンジンなどの部品の性能確認にも利用できますし、工作機械などの加工性能の検証にも活躍します。また、実機と人間ではできないような危険な、あるいは費用がかかりすぎるテストも、仮想空間上であれば、手軽に実施することができます。
予知保全やアフターサービスもデジタルツインにお任せ
デジタルツインは、メンテナンスや保全業務の効率化にも力を発揮します。製造ラインでトラブルが発生した時には、どの工程で問題が発生したのかを把握する必要があります。デジタルツインでリアルの工程が再現されていれば、そこからエラーや故障の原因を特定し、対策を講じることができます。
また、過去から現在までのセンサーの時系列データやイベントデータを分析することで、機器の故障を事前に予測する、予知保全を実現できるでしょう。デジタルツインを駆使すれば、ダウンタイムを最小化し、生産性を向上させることができます。さらに、出荷後のデータも分析すれば、商品の利用状況に合わせたサービスを提供することも可能です。
工場の外に広がるデジタルツイン
このようなメリットから、製造業での活用が進むデジタルツインですが、近年では、小売業や医療、スマートシティといった分野でも活用が始まっています。例えば、より安全で便利な街づくりのため、街中にある大量のセンサーからリアルタイムに集められたデータから構築されるデジタルツインを活用しようという取組みです。
国土交通省による「Project Plateau」では、北海道から沖縄まで、全国56都市の3Dモデルが無償提供され、防災計画の立案や太陽光発電のポテンシャル推計など、様々な検証が行われています。東京都も、「Project Plateau」の3Dモデルに、東京都が持つ様々なオープンデータを接続・可視化した「デジタルツイン実現プロジェクト」を2021年に開始しました。
今後、5Gから6G時代となり、デジタルツインはますますその活躍の場を広げていくでしょう。「仮想世界と現実世界を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する社会」である、Society5.0の実現に向け、デジタルツインの進歩には今後も目が離せません。