スマート工場にXR、ローカル5Gなど、DXで大きく変わる製造業。その姿を正確に掴むために必要なキーワードを一挙に解説。第三回目は、「スマート工場」について解説します。
スマート工場(スマートファクトリー)とは、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)などの先進技術を用いてデータの活用・分析を行い、製造プロセスの改善や稼働の効率化、さらには、新たな付加価値の提供を実現する工場のことです。生産ラインや製造機械などの、工場内のあらゆる設備がネットワークで繋がり、生産活動の最適化や情報管理の効率化を図る工場と言っても良いでしょう。スマート工場は、日本が提唱する「コネクテッド インダストリーズ(Connected Industries)」を実現するための鍵といえそうです。
デジタル技術の進歩で、製造業の在り方は大きく変化
近年、デジタル技術の進歩を受けて、世界的に製造業の在り方が大きく変化しています。製造業におけるIT活用は、世界の主要国で国策として位置づけられており、グローバルでの競争が激しくなる中で、最新技術を活用して競争優位を獲得することが、企業の大小を問わず、必須となりつつあります。ドイツ政府は、ITを活用して第4次産業革命を実現するためのコンセプトとして、「インダストリー4.0」を掲げています。中国では、2015 年に、中国における今後10年間の製造業発展のロードマップである「中国製造 2025」の国家戦略が発表され、イノベーションを促進し製造業の高度化を目指す方針が打ち出されました。
日本の製造業も、グローバルで競争⼒を強化するためには、ものづくりのスマート化を進めることが不可欠です。また、少子高齢化による労働人口の減少という課題を抱える日本においては、テクノロジー活用による人手不足対策や、熟練職人の技をデータ化したり、可視化することで、技能継承を進めていくことが必須です。経済産業省は、「コネクテッド インダストリーズ」というコンセプトを発表した2017年、「スマートファクトリーロードマップ」を発表しました。目指すべきスマート化の⽅向性やレベルを具体的に示すことで、スマート工場の実現を促進しようとするものです。
データ活用により得られるメリット
工場内のデータを収集することが、スマート工場実現への第一歩です。「スマートファクトリーロードマップ」では、データを収集して状態を⾒える化することが、データ活用のレベル1とされています。ここから、データを分析し、将来予測を行ったりすることで、品質の向上やコスト削減を実現します。また、設備の稼働状況をモニタリングし、故障を事前に予測、予防できれば、⽣産性の向上につながるでしょう。
データ活用は、製品出荷後も続きます。製品の使用状況を把握できれば、ユーザーの行動や新たなニーズ、改善点などのヒントを得られるでしょう。データ活用により、新たな製品の開発や、部品が摩耗して使えなくなる前に交換品を届けるなど、新しい価値を提供することができるのです。
スマート工場実現の課題は、人材不足やIT投資の必要性
このようにメリットが大きいスマート工場ですが、日本では、実現が加速しているとは言えない状況にあります。2020年のものづくり白書では、データ収集を行っている企業の割合は約半数で、前年よりも減少していることが報告されました。製造工程や人員の稼働状況を「見える化」しプロセス改善を行うなどの取り組みついても大きな進展は見られません。また、販売後の製品の動向や顧客の声を設計開発や生産改善に活用している企業は1割にも満たない結果でした。
データ活用には、どのようなデータを集めてどのように活用するのかなど戦略設計ができるデジタル人材が必要ですが、このような先端IT人材は不足がちです。また、スマート工場で取り扱う膨大なデータを守るためには、ゼロトラストなどの強固なセキュリティモデルが欠かせません。さらに、リアルタイムでのモニタリングや分析には、エッジコンピューティングのような仕組みも必要です。スマート工場を実現するためには、このようなセキュリティや設備への投資や人材に投資していくことが重要です。
コロナ禍で製造業のIT投資は増加。スマート工場に追い風が吹く
コロナ禍となる以前から、一部の大手企業においてIT活用やDX推進を所掌する部署が新設されるなど、組織体制も刷新してDX推進を加速させようとする動きがありました。コロナ禍となり、サプライチェーンの分断に迅速に対応したり、密を避けながら生産を継続するためにもさらなるDXは必須といえます。世界のスマート工場関連市場は、2025年には2018年の3倍の約7兆円に増加すると予想されており、今後、日本でも製造業のスマート化は加速していくでしょう。