一口に製造業といっても、千差万別。このコラムでは、製造業界の基礎情報やトレンドを紹介します。第11回目は「建設機械業界」を解説します。
海外需要が、建設機械市場の成長を牽引
2021年の建設機械の出荷額は、前年比27.3%増の2兆7569億円だった。内需は横ばいだったが、外需が前年比50.6%と急伸し、総額でコロナ前の2019年の数値を上回る結果となった。建設機械の需要増の背景には、北米や欧州、アジアを中心に、新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、経済活動の正常化が進んだことや、各国政府が打ち出した積極的な経済対策があるとみられる。国内最大手のコマツは、世界で見ても米キャタピラーに次ぐ世界2位の売上を誇り、世界の2大メーカーの一角を占める。このほか、豊田自動織機はフォークリフト、クボタはバックホウ(ミニショベル)で世界1位のシェアを有するなど、建設機械業界では日本企業の存在感は大きい。
建機業界のデータ活用は、20年以上前から始まった
土木や建設業界では、労働力不足や作業員の高齢化が課題となっている。現場での安全への配慮は必須だが、利益をあげるためには費用を抑えなければならない。施工現場が抱えるこのような課題を解決するために、建機業界でも20年以上前からデータの活用が始まっている。
その代表例が、コマツが開発し、2001年から建機に標準装備している「KOMTRAX」(Komatsu Machine Tracking System)だ。GPSや通信システムを搭載した建機の位置や稼働状況を確認し、システム上で一元管理するものだが、なんと誕生のきっかけは盗難防止だったという。当時、日本では盗んだ油圧ショベルでATMを壊して現金を強奪する事件が続発しており、その対策としてGPSを付けたのが「KOMTRAX」の始まりだった。実際に、現場から500メートル以上車が移動したらアラートを出す機能や、遠隔からエンジンがかからないようにする仕組みなどが追加で実装された結果、盗難は劇的に減少したという。
単純なようだが、位置情報が分かるだけでも、業務の大きな効率化が実現する。GPSで建機の場所をすぐに確認できれば、例えばコマツの保守担当者が、故障した建機を受け取りにいく際に、人里離れた現場で建機を探して迷う心配もない。また、稼働状況のデータが分かれば、交換が必要な部品を事前に顧客に伝えるなどのサービスを提供することができる。
データ活用を加速するエコシステムの実現へ
生産性や安全性の向上を実現するためには、単にデータを収集するだけではなく、それを加工し、価値あるインテリジェンスに変えていく必要がある。ますます自動化、高度化が進むスマート建機から得られるデータを、いかに施工オペレーションの最適化につなげるか。コマツは、そのための仕組みをオープン化し、スマート建機などから収集したデータを活用するためのIoTプラットフォームの活用をパートナー企業と進めている。
2017年に発表された「LANDLOG」は、コマツ、NTTドコモ、SAPジャパン、およびオプティコムが開発したもので、建機のみならず、環境・地形・資材・スタッフといった建設生産に関わるすべての「モノ」から得られるデータを収集する。そして、データを様々なアプリケーションによって可視化することで、より利用価値の高い情報として利用する仕組みだ。「LANDLOG」は、情報の収集・蓄積・解析の機能 をオープンプラットフォームとして提供することで、異業種の企業やアプリプロバイダーなどの参加を促し、巨大なエコシステムを作ることを目指す。
オープンプラットフォームではなく、企業独自の取組としては、2022年1月に日立建機が発表したDX基盤がある。日立建機が日立製作所と共同開発したもので、建設機械の稼働状況や生産、販売、在庫などのデータを一元管理する。日立建機では、今後、日本で利用されている建機の種類や稼働状況のデータを、サービス部品の品目や在庫量の適正化に活用するなどの取組を実施していくという。
建設機械の自動化も
働き手不足の解消や安全性の向上のため、建設機械の自動運転技術の開発も進む。大成建設は、複数の自動運転建機の協調運転を制御するシステム「T-iCraft」を開発しており、2021年6月には、GPSなどの位置情報が届かないトンネル坑内における無人建機の自動運転を国内で初めて実施した。大林組も、複数の自動・自律運転が可能な建設機械を効率よく運用できるプラットフォームを開発し、2022年4月、土砂の掘削や積み込みを行うバックホウやブルドーザー、ダンプカーの自動運転の実証運転を福島県で実施した。
2020年には、東大発のスタートアップDeepXが、油圧ショベルで掘削して掘り下げる作業を、AIを活用して無人かつ自動で行うことに成功するなど、AI活用も活発化している。このように、建設機械業界では、ICTやAIなどの先進技術を活用し、DXを推進しようとする動きが盛んだ。2020年には、コマツが経済産業省、東京証券取引所、独立行政法人情報処理推進機構が共同で選定する「DX銘柄」の、「DXグランプリ2020」に選定されるなど、業界のDXへの取組みへの注目度は高い。
建設機械は、「景気の先行指標」と言われる。建設機械のDXの取組み状況が、日本の製造業のDXの先行指標といえるのか、注目だ。
関連する業界団体
日本建設機械工業会:https://www.cema.or.jp/general/index.html
日本建設機械施工協会:https://jcmanet.or.jp/